Dr.Kernelの見た世界

ゆとり第一世代の医師。読んだ本の感想や社会と経済、気になるテクノロジーやヘルスケアの話

腸内細菌が高血圧に効く?

◯ 腸内細菌の働き

今週初めから腸炎で苦しんでいるんですが、そんな中職場のデスクで読んでいた記事もたまたまうん◯の話でした。有名な科学雑誌 nature に投稿されていた記事です。腸内細菌と塩分と高血圧の話。

 高血圧の方は減塩しなさいよと口酸っぱく言われると思いますが、ある腸内細菌が塩分による高血圧を防いだり、自己免疫を弱める作用があると報告されました。

 

Lactobacillus casei

 

◯ 塩分と高血圧

塩分摂取と高血圧は関係があると考えられています。過剰な塩分を取ると高血圧につながる、ということで、1日の食塩の摂取量の目標は日本では男性は 8.0 g、女性は 7.0 gに定められています(日本人の食事摂取基準(2015年版))。実は日本人は相当塩分摂取量が多い方で、平均的には1日11-12gもの食塩をとっているそうです。でも、世界の基準は実はもっと厳しいです。アメリカ人の平均の塩分摂取量は8.5 gですが、WHO(世界保健機関)が目標とする塩分摂取はなんと5 g ! 日本人の平均摂取の半分以下です。

 

「塩分を取ると高血圧になる、そして心血管疾患が増える」

 

だから塩分を減らしましょう。という論理ですが、実際には「塩分を取らなければ高血圧にはならずに心血管リスクが増えない」というのは実証なしには言えず、減塩したから必ずハッピーという訳ではありません。(数学でいう、裏は真とは限らない、ってやつですね。)ただ、長期的な効果はあまり実証されていないものの短期的な効果は証明されているので、塩分をとり過ぎるのは勧めません。

 

今回の記事では見方を変えて、塩分をとっても高血圧にならない方法があるかもしれない、ということに注目です。塩分をたくさん与えたマウスに、Lactobacillus murinusという細菌を与えたところ、塩分により血圧を高める効果を弱めたというのです。

Disposable blood pressure cuff

◯ 自己免疫

血圧が高くなるというのは、血管が硬くなること、つまり動脈硬化が元凶と考えられています。動脈硬化を促進する因子として、「炎症」が悪さをしているのではないかと最近では考えられています。自己免疫というのは炎症にも関係するものです。通常は細菌やウイルスなど、自分以外の異物が体内に侵入した時に異物を排除するシステムとして働くのが免疫ですが、自分自身を異物として認識してしまって自分を排除しようとする、つまり自分自身を攻撃してしまうのが自己免疫です。このLactobacillus murinusという菌は、自己免疫にも関係するリンパ球の一種のTh17というリンパ球を抑える働きがあるようです。実際に、この菌を投与されたマウスでは人工的に発症した自己免疫の病気が良くなりました。自己免疫の働きを抑えることで、自分自身の体に炎症を起こして動脈硬化を進める働きも抑えてくれるのですね。

 

◯ 腸内細菌への注目

腸内細菌の中には高血圧や自己免疫疾患を改善させるポテンシャルがあるものがいることがわかりました。ただし、報告はマウスを使ったもので、人間に適応できるかはまだまだ分からないそうです。ラクトバチルスはヨーグルトにいるらしいから、ヨーグルトをたくさんとれば健康になる!とはならないわけですね。

ただ、最近は腸内細菌への注目はすごく高まっていて、この数年はたくさんの報告がでています。腸内細菌のバランスが崩れると全身の状態のバランスが崩れるんじゃないか、とか他人の腸内細菌を移植する(要するに糞便移植ってやつですが)ことで難治性の病気が治ったりするということがたくさん報告されています。

お腹の中の環境という意外なものが健康に密接に関係しているんですね。

 

Wilck, N. et al. Nature 551, 585–589 (2017).

Relman, D. Nature 551, 571-572 (2017).

 

・食事と生活習慣病は密接に関係しています。

 

drkernel.hatenablog.com

 

 

 ・抗生物質で腸内細菌叢を乱すことは体にとって悪影響を起こすかもしれません。腸内細菌叢は体にとって重要な役割を果たしている。

失われてゆく、我々の内なる細菌

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 ・腸内細菌について最近の研究の話が詰まった本

あなたの体は9割が細菌: 微生物の生態系が崩れはじめた

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