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エンダウメント投資戦略(山内 英貴)

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エンダウメント投資戦略

エンダウメント投資戦略

相場の環境に左右されずに安定したリターンをあげる、というのは多くの投資家が夢見るものです。株、債券などの上昇相場を見極めてリスクを避けながら投資をしていくことは一つの理想です。エンダウメントは投資機関の中でも注目されており一つの答えの形を与えてくれます。エンダウメントには永久的に(債務によらない資産を)運用をする大学の財団などが当てはまります。規模が大きい米国の財団ではその資産規模は数兆円に及びます。国内とは桁が二桁も違います。特にハーバードやエールのエンダウメントは素晴らしい成績を挙げていることで有名です。本書はこれらのエンダウメントがとる戦略を解説してくれます。著者はヘッジファンドの方なので特にオルタナティブ資産・ヘッジファンドの利用についてやや詳し目に書いてありました。


エンダウメント投資戦略

ところで、エンダウメントとは投資母体の形態のことを示しているだけなので戦略を示しているわけではありません。しかし、エンダウメントは債務を負わず、ファンドの償還期限や年次の成績を気にしながら運用を行う機関投資家とは性格が異なります。特に、長期投資の性格が強くなります。代表的なエンダウメントであるハーバードやエールのポートフォリオはよく分散されたポートフォリオになっており、米国株、海外株、債券、不動産、天然資源、ベンチャーキャピタルレバレッジドバイアウト(企業買収)、絶対リターン戦略(ヘッジファンド)など幅広い投資対象に資産を割り振ります。エール大学、ハーバード大学のエンダウメントのWebサイトを参照し、共通して重視しているのは「リターンとリスクの分析」です。ポートフォリオを組んでリスクを抑えながらリターンを狙っていくという戦略です。この手法でこれらの大学は年間平均10%を超えるリターンを数十年に渡ってあげているようです。

エール大学のサイトで個人的に響いたのは、「過去のデータはガイドにはなるが、経済構造の変化に応じた対応とアノマリーへの補償が必要。」といった記載でした。ハーバードの投資の方針にははっきりと「ESG投資を重視する」という記載がありますし、アクティブ投資家としての役割を果たす姿勢が鮮明になっています。過去を参考にしつつも未来を見据えて資産形成と投資対象が社会にもたらす恩恵も考慮しているのが素晴らしいと思います。

戦略として転用できそうなこと

幅広い資産に投資すること。というのが重要なのですが、個人投資家で直接天然資源やヘッジファンドレバレッジドバイアウト、ベンチャーキャピタルからのリターンを得るのは困難です。しかし、全く同じ戦略を取るのは難しくても、

ETFの活用
オルタナティブ資産にある程度の割合を投資する

という手法で近づけることはできます。エンダウメントのように幅広い投資により市場に影響されにくいリターンを挙げ、市場変動局面にも頑強なポートフォリオを組めるかもしれません。

本書に述べられた重要な要旨は以下にまとめられます。

・長期投資に徹する
分散投資に徹する
オルタナティブ投資を積極的に活用する
・引用は外部の運用会社に任せて、ポートフォリオの資産配分に注意する
・良い運用会社を選び、できるだけ長く保有して、あまり頻繁な売買はしない。

実際にイェールの年次での配分ターゲットは公開されています。参考になるかもしれません。

機能としても、リターンを積極的に狙うものから、インフレ・デフレへのヘッジ、ショックへのヘッジがよく考えられています。

ヘッジファンドの利用

本書は特にエンダウメントのとる戦略の中でヘッジファンドが果たす役割についてよく書かれています。それも著者がヘッジファンドに所属しているからなのでしょう。

ヘッジファンドがとるのは「絶対リターン戦略」です、市況からの影響をなるべく小さくして安定したリターンを上げていくという戦略です。市場の影響を打ち消すようなロングショートを同時に行う戦略が特徴的です。詳細は本書では割愛しますが、同じ著者の「オルタナティブ戦略入門」も一緒に読んだのでいつかご紹介します。

もっとも、ヘッジファンドの利用については賛否両論あると思います。最近はリキッドオルタナティブといった流動性に富んだ資産もでてきているようですが、日本ではあまり一般的ではありません。ヘッジファンド自体が運用期間を決めて、まとまった資金を集めて運用を行う形式になっているので一般の個人投資家にはアクセスがしにくいのが事実です。また、手数料が高く、運用の手数料として年率2%程度、リターンが上がれば成功報酬として20%程度がかかります。そこまでの資金を投じて信頼に足るマネージャーを見極めるよりもVanguardなどの低コストのETFに投資することで得られるメリットもあります。

また、戦略の変更に伴うポートフォリオの組み替え、売買コストは個人投資家では大きな問題になり得ます。戦略を決めてリバランスに徹するのが基本ですが、オルタナティブ投資の情報は得にくいところもあるため、よく考えてポートフォリオを組まないと途中で退場というシナリオもあるでしょう。

そして、あくまでリターンの多くの部分を担うのは株式・企業であり、エンダウメントといえど半分程度はこれらへの投資からなります。リスクの調節に何が有効か、という視点から参考にする程度が良いかと思います。以上を踏まえると個人投資家として取りやすい戦略としては、株式中心のポートフォリオに、相関が少ない資産を組み込んでいくことに収束していく印象を持ちました。

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